急激な変化と乱気流の時代にあっては、大きな流れそのものを機会としなければならない。その大きな流れは、ニュー・エコノミーではなく、ネクスト・ソサイエティの到来である。若年人口の減少、労働力人口の多様化、製造業の変身、企業とトップマネジメントの機能・構造・形態の変容である。この局面に応じた戦略なくして成功はありえない。         −P.F.ドラッカー(要約)

2005年03月04日

2005Feb.06 山口県柳井市観光振興講演会

題目:柳井市の観光の課題と振興方策
〜脱団体時代の構造改革とお手軽改善〜
主催:柳井市ホスピタリティ推進協議会、柳井市商工観光課

yanaikoen  yanai  tenjin
(左:講演風景、中央:白壁の町並、右:天神商店街)

先日、「全国の商店街のうち面白いところはどこか?」というアンケート調査があり、60の商店街が選ばれた。商店街の道路を拡張しただけで道が整備された商店街が注目されていた一方で、全国一賑わっているとも言える佐世保の商店街が抜け落ちていた。大事なことはハード整備ではない。
客というのはちゃんと見ていて、厳しく評価している。その土地に住む人が努力をしてきたのかがハッキリと賑わいとして反映される。昭和40年代に栄えた宮島は今どうか?近隣住民の手によって宮島がより宮島らしくなり、行ったら一日ゆっくり宮島を堪能して過ごせるか?残念ながらそういう噂は耳にしない。
翻って柳井はどうか?徳山市出身者の私が子供の頃、歴史ある商都柳井として名が通っていた。1975年(昭和50年)に山陽新幹線が徳山に開通。柳井の人は新幹線が止まらないことが、柳井凋落の始まりだと思っている人がいる。近代工業化されて急成長した徳山から見れば、確かに当時の柳井は白壁の町並など目立たず、大して人目を惹くようなものがない普通の田舎町だった。ところが30年の間に何が起こったか。ハード整備をしまくって日本一広い道路を持つ10万都市徳山は、どんどん空き地が増え衰退の一途を辿る状態。一方、柳井は来る度に手作りで町並が綺麗になっている様子が伺えた。そして今、徳山に行く人はいなくなったが、柳井に行こうという人はわずかだがいる。この差は歴然としてきた。しかし、町並整備にあれだけ資財を投じてこの程度であれば、観光によって潤っている人はほとんどいないのではないか。今後このまま観光に力を入れて発展する道があるのか、それともこの程度で留まるのかは皆さん次第。今日は柳井とその他の事例を見ながら、柳井の良いところ悪いところ、今後の方策を率直に話したい。

事例1:愛媛県内子町の重厚な町並

内子  内子
(愛媛県内子町 八日市・護国の町並)
愛媛県商店街実態調査 県内商店街一覧
http://www2.ehime-iinet.or.jp/syotengai/index/data-index3/index.asp

事例2:滋賀県長浜のバランスの取れた商店街
奇跡の復興と呼ぶべき滋賀県長浜(人口約56,000人)は、年間200万人強の観光客が来る街となった。取り組みが始まって15年経つが、今のように賑わってきたのは、ここ5年ほどの話。しかも、今でも賑わっている通りと、全く人のいない通りというのはハッキリと分かれている。ここには柳井のように団体客向けの旗を持ったガイドさんはいない。そして観光客だけでなく、普通の人の生活と観光とがバランスよく共生・調和している状態。このようにするにはどうしたらよいのか。

長浜御堂筋  長浜表参道  ゆう壱番街

(左:昭和60年代の御堂筋、中央:平成の表参道、右:ゆう壱番街)
長浜商工会議所のHP
http://www.nagahama.or.jp/index.html

事例3:三重県伊勢の内宮と外宮
昔はビルにした方がクーラーのある店としてお客さんを呼べたが、クーラーが当たり前になった今では、趣がないビルのままだと客が入らないという現象が起きている。伊勢神宮に来る客は外宮と内宮両方に行く。最寄り駅から歩いていける外宮と、交通の不便な内宮を比較すると、交通の不便な内宮の門前町が賑わう一方、外宮の参道は寂れている。何故か?門前町では深刻化する商店街の衰退を食い止めるべく、地権者達が伊勢に相応しい古風な店構えと町並づくりに力を注いだ。外宮の参道では、黙っていても客は来るとプライド高き地権者が努力しないため、近代的などこにでもあるような商店街のままで客が寄りつかなくなった。客が来ないのは不況のせいではない。

伊勢外宮参道  おかげ横丁
(左:外宮参道、右:内宮門前のおはらい町おかげ横丁)

●観光を取り巻く環境の変化とこれからの施策●

『成熟化時代は観光が主要産業の一つ』
柳井の就業者総数は減少。製造業が続落、商業が微減。就業者の減少は東京でも同じで全国的な傾向にある。このような中、就業者数を伸ばしているのは、観光に力を入れている地域。具体的には飛騨高山、沖縄県八重山地方。共に農林漁業分野で就業者数が減少しているが、旅行を含むサービス業は高い伸び率を示している。観光産業の好調に吊られ商業を維持。共に柳井以上に交通の不便な地域である。高山は、町並の建築物自体が大工の力量を示す展示品となり、圏外からも仕事が舞い込んでいる。土産品で最も高額な物は飛騨牛で、戦略的に計画され平成元年に登場した代物。牛の飼料は全て地元産だから、お金は全て地域内に還元されている。
先進国の高い人件費を工場で賄うことが難しい中、観光産業はそれが可能。

『観光の実態』(山田圭一郎氏の講演資料より)
日本の全観光客のうち、団体客の占める割合は消費額ベースでなんと2割(平成12年)しかない。
旅行形態の多い順のベスト3は、「若い女性グループ」「子連れ家族旅行」「熟年夫婦二人旅行」。
20〜40代の日本人で、性別・年代を問わず共通して一番に上がった「旅先で参加してみたいこと」は、「疲労回復のための全身マッサージ」。都会の人間はそれだけ疲労困憊しているのが現状。
⇒すなわち、個人旅行を対象とし、マッサージを受けたような癒し効果のある旅行が求められている。

『時代は脱団体旅行!消える国境意識』
年齢別人口構成の変化によって、かつて団体旅行をしていた戦前生まれ世代の割合が減少していく。
団塊の世代以降は夫婦で行動する傾向。マイカーでしか動かない団塊ジュニア世代が中核に。
プラザ合意後、海外旅行が手頃価格になり、海外志向が急増した。海外旅行と国内旅行を同じ土俵で比較する時代に。
 例:新人類のある青年の場合→第一希望/ロンドン、第二希望/青森、第三希望/パリ。

『変わりゆく消費行動』
マズローの5段階欲求 一般事項       旅行産業       時代
生存欲求  :必要最低限の生理的欲求  暇もゆとりもなし     終戦後
  ↓
帰属欲求  :集団での仲間意識     人並みの旅行意欲     高度成長期
  ↓
被認知欲求 :集団内での自己顕示    有名観光地の旅行     安定成長期
  ↓
優越欲求  :集団内での優越意識    人が羨む旅行       バブル期
  ↓
自己実現欲求:絶対的な満足意識     感性に合う生活文化探求  現在

⇒価値観の多様化。「十人十色」から『一人十色』の時代へ。

⇒観光振興(街の賑わい)と交通の便は無関係!地域資源の有無は無関係。
  【中身と見せ方、住民の集団的な努力の問題!】
例:交通の便が悪い上関のフグ料理は今も人気。
  飛騨牛は観光産業の戦略として新しく作った。
  沖縄県八重山諸島は米国旅行よりも旅費が高くて不便なのに、
   観光産業で中国以上の経済成長率を誇る。

『柳井の観光振興 2つの戦略』
(現状)
良し悪しは別としてバブル時代に計画された道路拡幅、電柱地中化などが進められた。このような行政の努力の他に、地域住民の方が空き地に花を植えている。地元の人が一生懸命街を大事にしよう、街を良くしようという心意気が感じられ、観光客は実はこのようなところを感覚的に評価しているもの。来る度に発見があるというのは魅力。柳井の名物「金魚提灯」の金魚に代表されるように、無防備で威張らないけど華やかで粘り強いところが柳井商人のいいところ。観光客に媚びるのではなく、気に入ったら買ってもらうという微妙なバランスが表現できる街。

(今後)
・「まち」としての魅力の強化。
 徳山にはない、生活文化を売り物にしよう。
 →街並み観光の5要素「雑踏」「食の名物」「博物館もどき・特色ある小物」
  「駐車場」「B&B」を備えよう。
 →ご当地のこだわりとうんちくある自主ルールを作り、時間をかけて不純物を除去。
・日帰りから宿泊への脱皮。
 日帰りと宿泊では客単価が10倍違う。
 →食文化の発信、地元食材使用の徹底、宿の改善。
具体的には、
・賑わい空間と生活空間のメリハリをつけながら織り交ぜるといい。
・団体バス用の駐車場はがら空きなのに、個人用の駐車場は分かりづらく、どこに止めてよいのかわからない。このままでは地域に一銭も落ちずに素通りされてしまう。
・飲食店が一軒しかなく、残念なことに地域色はない。金魚提灯や甘露醤油が生活の一部として外部から見えるといい。
・どんな人がどんなところをどのように使用しているのか、見せる工夫が必要。
・路地裏や水辺空間の有効活用。

事例4:兵庫県出石町のターゲットを絞った観光戦略
人口1万人の町。旅行客を団体客、個人客単価低、個人客単価高(1割)の3種に分け、観光ルート、駐車場対策、土産などをそれぞれ差別化することで、年間100万人の旅行客を獲得。

出石1  出石2  出石川
(左:町のシンボル「辰鼓櫓」、中央:伝統的町家景観通り、右:出石川)

http://www.izushi-tmo.com/izushi_tmo/index.html
http://www.izushi-tmo.com/map/index.html
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanko/03uesaka.htm

【施策のポイント】
セグメンテーション(客の細分化):客をどのように分類(多様化に応えて需要を満たす)し、
ターゲティング(狙い付け):どんな層にどんな物を用意するか、
ポジショニング(位置づけ):客にとって自分はどんな存在か、相手の立場に立って考える。

旅行者は、手軽に非日常のライフスタイルを疑似体験したい。
⇒地域独自の生活文化を楽しみたい。
 地元の人が普通にしている特別なことが観光客にウケる。
 ユニークで楽しそうな生活をしている地域には、不便でもお金を掛けて出かける。

【観光の担い手3つの条件】
・自らが自らのお金で旅行をして、外を見ることが大事。
  一番の問題は、旅行産業の担い手が旅行していないことが問題。
  他の業界には見られない現象。
・年齢、性別を対等に扱い、尊重する。
  マーケティングの感性が鈍くてはいけない。
・自分の都合より、客の都合を優先する。
  国内外の他の観光地に競争負けする。地域全体での地道な努力あるのみ。

【先行事例】
・北海道十勝地方
  温泉付ホテル+食や花を核とした田園観光+地産地消の屋台村+各種美術館で活性化。
・新潟県村上市
  温泉旅館+町屋の「内側」を見せる街並み観光+地域特有の食で人気急上昇。
・鳥取県智頭町
  過疎山村の集落単位の集客事業への取り組み+エコツーリズムで驚愕の効果。
・山口県長門市俵山温泉
  4連泊ツアーを受け入れ、萩・津和野・山口・秋吉台・下関などの周遊の基地に。
・高知県高知市
  300年続く巨大日曜市を足がかりに、商店街型フードコートや飲食街で集客。
・沖縄県八重山地方
  エコツーリズムと「短期定住」客向けの地産地消で、地域経済が3年連続二桁成長。

講演アンケートの結果@柳井(Word 36KB)

柳井市平成16年度予算
http://www.city-yanai.jp/siyakusyo/zaisei/%E4%BA%88%E7%AE%97%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81/%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%91%EF%BC%96%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E5%BD%93%E5%88%9D%E4%BA%88%E7%AE%97%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81%EF%BC%88%E3%83%91%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88%EF%BC%89.pdf

周辺関連資料
2003Jan.13 周東町での合併問題に関する講演
http://www.bocho-shinbun.com/news/20030113newspage/news02.htm
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